患者さんへ

対象疾患と診療内容

当科では脳血管障害、脳腫瘍、機能性疾患、脊椎脊髄疾患、小児脳神経疾患、間脳下垂体腫瘍といった脳神経外科の各部門の専門医が、国内で一線級の臨床技能を有し、チームとして診療にあたっています。

私たちの診療システムは大学病院だけではなく、血管内治療科や関連基幹病院である広南病院(脳血管障害、間脳下垂体外科、他)、仙台市立病院(頭部外傷、他)、仙台医療センター(脳血管障害、脊椎脊髄外科、頭蓋底腫瘍、他)、古川星陵病院(定位放射線治療)、宮城病院(機能的脳神経外科)、宮城県立こども病院(先天性奇形、小児脳神経外科)等とネットワークを形成し、統合的な治療を提供することで、患者さんに最も適切な治療を選択できる体制を整えています。

診断においては、豊富な経験を有する専門医の診察に加えて、高磁場MRIや三次元画像作成可能な高速CT scan、PET、SPECTなど最先端の画像診断装置を取りそろえています。脳神経専門の放射線診断科専門医との綿密なコミュニケーションをとり、迅速かつ正確な診断、手術プラニングを行っています。

手術に関しては最新の手術顕微鏡のみならず術中蛍光診断、神経内視鏡、手術ナビゲーションシステム、MRI誘導下定位脳手術機器、種々の神経機能モニタリング装置を取りそろえ、低侵襲にして最大限の治療効果を目指しています。また、放射線治療科など他科と綿密な連携をとり、放射線治療や化学療法などの術後補助療法も重要視しています。近年発展がめざましい血管内治療(カテーテル治療)、定位的放射線治療(ガンマナイフなど)も、当院脳血管内治療科、広南病院脳血管内治療科、古川星陵鈴木二郎記念ガンマハウスと連携して有力な治療手段として活用しています。これらの治療法を手術と組み合わせることによって、より低侵襲な治療を提供します。

このように専門スタッフ、最新の診断・治療機器を駆使してEBM(evidence based medicine)・テーラーメード治療の観点に立ち、最も患者さんの利益になる治療を追求しています。脳神経外科をとりまく診断・治療技術は著しく進歩しており、日々新たな知見を生み出しています。私たちは、最新の知識の追求・応用力の育成・患者と病気について常に「考える」という謙虚な姿勢で臨むよう心がけています。

また、未来の脳神経外科診療をより良くすることも私たちに与えられた重大な使命です。診療活動以外にも、研究活動、将来の臨床的・研究的指導者の育成といった大事な責務が大学病院にはあります。みなさまのご理解、ご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

以下、疾患ごとに私たちの診療体制を紹介いたします。

脳血管障害

脳動脈瘤

くも膜下出血の最も多い原因である脳動脈瘤は頭蓋内の太い脳血管の様々な分岐部に発生します。画像診断装置の進歩により脳ドックなどで見つかる未破裂脳動脈瘤も年々増加傾向にあります。従来、破裂率など自然歴が明らかでなかった脳動脈瘤ですが、動脈瘤の大きさなど破裂のリスクと関連する因子も明らかになりつつあります。当院では動脈瘤の発生部位に応じて破裂を予防するための脳動脈瘤クリッピング術やカテーテル治療による塞栓術を行っており、定期的経過観察も含めた選択肢について個別に相談しながら治療を行っています。

もやもや病

もやもや病は両側内頸動脈終末部周囲の脳主幹動脈が進行性に狭窄・閉塞し、付近に異常血管網の発達を認める原因不明の疾患です。小児や若年成人において脳梗塞・脳出血をきたし片麻痺・失語などの後遺症、さらには生命にもかかわることがある疾患です。脳の血流が不十分な場合は早めの血行再建術(バイパス術)の効果が知られています。稀な疾患ですが当施設では全国有数の手術症例数があり、術後脳血流評価など周術期管理法にも工夫をこらし、より安全で効果のある治療法を目指しています。

頚動脈狭窄症

高度な頸部内頚動脈狭窄症は、一過性脳虚血発作や脳梗塞の原因となり得る疾患で、本邦でも生活スタイルの欧米化により患者数が確実に増加する傾向にあります。本疾患に対する外科治療として、頚動脈内膜剥離術が欧米で行われた大規模臨床試験によって脳梗塞予防効果が示されました。一方で周術期に合併症が生じやすい病変には、侵襲の少ないカテーテル治療である頚動脈ステント留置術が行われて来ました。すでに数十年に及ぶ経験が蓄積され、治療の安全性と確実性は飛躍的に向上し、近年発表された臨床研究では頚動脈ステント留置術は頚動脈内膜剥離術に匹敵する治療成績を示しました。当科では、このようなエビデンスに基づき、背景にある基礎疾患・合併疾患を他科と協力して個別に検討しながら、定期的経過観察や内科的治療を含めた治療を行います。

脳腫瘍

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫は原発性脳腫瘍の約30%を占め、腫瘍を構成する細胞の形態から、星細胞腫、乏突起膠腫、上衣腫などに分類されます。また神経膠腫は、その悪性度により大きく4段階に分けられます。もっとも良性なグレード1は小児に多いとされる毛様細胞性星細胞腫で、手術で全摘出できれば治癒することが可能です。グレード2以上の神経膠腫は脳にしみこむように広がるため、手術だけでの治癒は困難であり、放射線治療や抗ガン剤(化学療法)を組み合わせた治療(集学的治療)が必要となります。なかでもグレード4の神経膠腫である膠芽腫は手術だけでは早期に再発することが知られており、手術後すみやかに放射線治療と化学療法を行います。

①手術
神経膠腫は正常の脳にしみ込むように広がるために、できた場所によっては無理な摘出は重大な合併症(麻痺(手足の動きの障害)、失語(言葉を話したり理解することの障害))を来たすことになりかねません。当科では安全な摘出を行い、かつ摘出率を向上させるために、覚醒下手術、術中ナビゲーション、脳機能マッピング、蛍光診断によるナビゲーションなどを行っています。
②放射線治療
悪性の神経膠腫に関しては放射線治療科との綿密な協力のもと放射線治療を実施しています。病変に応じて強度変調放射線治療(IMRT)をおこなっています。また切除不能な再発病変に対しては関連病院との協力でガンマナイフ治療やサイバーナイフ治療を行なっています。
③化学療法
初発悪性神経膠腫に関しては、症例によりますが2013年に保険適応となったギリアデルの留置を手術時に積極的におこなっています。これは腫瘍細胞がわずかに残存している摘出腔周囲に抗ガン剤をしみ込ませたポリマーを留置することで残存腫瘍の増殖を防ごうという試みです。また手術後は、放射線治療と併用でテモダールの内服あるいは二ドランの注射を行っています。これは放射線治療が終了後も引きづづき外来に通院しながらで1~2年継続します。再発時には2013年保険適応となったアバスチンを使用しています。これにより再発腫瘍の増大をくいとめるだけではなく、症状の改善を認める患者さんも認められるようになりました。
④CED
中枢神経系に対する薬剤治療は血液脳関門の存在のために困難であることが知られております。脳腫瘍に対する化学療法も同様であり、全身に投与された薬剤のごく一部が脳腫瘍に達するのみであり、十分な効果を得ることが難しくなります。一方で、先述のように神経膠腫は正常の脳にしみ込むように広がります。そのため、手術による治癒切除は不可能とされております。そのため、術後に残存するしみ込んだ腫瘍、もしくは摘出不可能な部位に発生した腫瘍に対しては化学療法の効力を増進することが望まれます。Convection-enhanced delivery(CED)は中枢神経系内の任意の部位に広く薬剤を局所投与する新規投薬技術です。当科では、本治療法を用いた新規治療法の開発を進めております。

転移性脳腫瘍

東北大学病院では多数の科で“がん”の治療が実施されております。これら多数の癌種からの脳転移も当科で担当する疾患です。当科による手術摘出、放射線治療科による放射線治療、関連病院との連携によるガンマナイフ、サイバーナイフ治療の選択肢を適切に使用することで、可能な限り転移性腫瘍による状態の悪化を回避する治療を行っております。

小児脳腫瘍

小児の脳腫瘍は、小児がんにおいて白血病についで頻度の高い疾患です。腫瘍の種類やできる場所がさまざまなため、症状や治療法、予後が異なります。

①髄芽腫
もっとも悪性度の高い腫瘍の一つですが、近年は手術、放射線治療、化学療法を適切に行うことにより、かなりの患者さんが長期生存を見込めるようになってきています。通常は手術により可及的に腫瘍を摘出したのち、放射線化学療法を行います。さらに数カ月後に維持の化学療法を行います。3歳未満の乳幼児の場合、発達障害を予防する観点から放射線治療の開始をなるべく遅らせるために、最初は化学療法単独の治療を行います。
②毛様細胞性星細胞腫
良性な腫瘍であり手術により全摘出できれば治癒可能とされています。ただし視神経や視床下部にできた場合は摘出により重大な合併症を来たす可能性もあるために、この場合は化学療法や放射線治療を組み合わせた治療を行います。
③上衣腫
脳脊髄液の流出路である脳室から発生する腫瘍です。良性型の場合、摘出できれば予後は良好ですが、脳幹とよばれる大切な組織に癒着している場合は無理な摘出は行わず、必要に応じて放射線治療を併用します。悪性型の場合は残存部からの再発あるいは脳脊髄液を介して播種性に転移することが知られており放射線治療は必須となります。
④胚細胞腫瘍
松果体、トルコ鞍上部に発生する腫瘍で、胚腫、成熟奇形腫、未熟奇形腫、悪性転化を伴う奇形腫、絨毛癌、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、それらの混合型があります。予後が最も良いのは胚腫、成熟奇形腫であり、胚腫は適切な化学療法と放射線治療をおこなうことにより、成熟奇形腫は手術で全摘出することにより治癒が期待できます。予後中間群は未熟奇形腫、それを含んだ混合型ですが、再発率が予後良好型より高いことからより強い放射線治療と化学療法を行い残存する摘出するといった治療を行っています。最後の絨毛癌、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、それらを主体とした混合型は予後不良群に分類されます。この群の腫瘍は最初に放射線化学療法を先行させ腫瘍の縮小をはかり腫瘍が小さくなったところで全摘出を試みるこという治療を行っています。この群は再燃率が非常に高いために初期治療終了後 さらに維持の化学療法も行っています。

良性腫瘍・頭蓋底外科

髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫に代表される頭蓋内腫瘍性病変に対する手術治療を行っています。 神経症状ならびに画像所見、さらには患者さんの年齢、家族構成や社会背景を吟味させていただいた上で、最適と考えられる治療方法を選択いたします。 当科での治療における特徴は以下の通りです。

<診療協力体制>

東北大学病院内において、脳血管内治療科、放射線治療/診断科、 眼科、耳鼻咽喉頭頚部外科、形成外科、肢体不自由リハビリテーション科、 高次機能障害学科をふくめた多くの診療科との連携し、協力体制のもと診療、治療をおこなっています。 さらに、古川星陵病院鈴木二郎記念ガンマハウス、広南病院脳神経外科(下垂体腫瘍)と診療グループを形成、二週間に一度の頻度で症例検討を行っています。そこでは、症例毎に適切な手術治療適応あるいは方法 、さらにガンマナイフ放射線治療をふくめた多角的治療戦略について検討しています。

術前術後
図1:頭蓋内から副鼻腔内へ伸展する腫瘍例。耳鼻咽喉頭頚部外科、形成外科との協同手術により治療した。腫瘍は全摘出され欠損部を大腿筋膜弁(矢頭、術後)が覆っている。
<手術支援>

手術ではニューロナビゲーター、ならびに術中神経機能電気生理モニタリング装置に代表される手術支援装置を駆使しより安全で確実な手術治療が施行できる体制を整えています。

ニューロナビゲータ画像
図2:ニューロナビゲータを用いながらの頭蓋内腫瘍摘出操作:ニューロナビゲータにより操作している箇所を確認しながら、安全に手術をすすめることが可能となる。
<神経内視鏡>

神経内視鏡をもちいた手術を積極的に取り入れています。第三脳室底開窓術、脳室内腫瘍生検術に代表される神経内視鏡単独手術、さらに手術顕微鏡下手術に神経内視鏡を併用し手術を行っています。

神経内視鏡をもちいた第三脳室開窓術
図3:閉塞性水頭症にたいする第三脳室底開窓術の症例。より侵襲少なく患者さんの症状、病態改善が可能です。
<手術シミュレーション>

コンピュータシステムをもちいて、手術前のCT検査、MRI検査さらには血管撮影検査を統合し、すべての症例において3次元画像を構築しています。これにより病変と正常脳神経、あるいは正常脳血管との関係をより明瞭に描出することが可能となります。これらの情報をもちいることで、正確かつ安全な手術計画作成が可能となるばかりでなく、患者さんあるいはご家族に手術方法についてよりわかりやすい説明をさせていただくことが可能となります。

3次元統合画像
図4:頭蓋咽頭腫における術前MRIと3次元統合画像。視神経(紫)脳血管(赤)と腫瘍病変(黄色)の関係を描出、術前の手術シミュレーションが可能となる。

間脳・下垂体腫瘍

広南病院脳神経外科に専門のスタッフを配し、日本でも有数の間脳下垂体疾患(下垂体腺腫、ラトケ嚢胞)の手術数を誇っています。内視鏡を使用した低侵襲手術にも積極的に取り組むとともに、正中部頭蓋底手術への拡大応用(拡大経蝶形骨洞手術)にも取り組んでいます。

頭部外傷(外傷性脳損傷)

当科では東北大学高度救命救急センターと連携して、重症多発外傷・重症頭部外傷を24時間、365日、積極的に受け入れて治療を行っています。救急専従医との連携はもちろん、整形外科、放射線科、麻酔科、外科、形成外科、心臓血管外科などとの密接な横断的連携により、迅速な初期対応と質の高い集中治療による救命率の向上を目指しています。 外傷性脳損傷の患者さんは、外傷性脳損傷外来において2年間の外来通院プログラムを実施し、画像、生理検査のみならず、高次脳機能障害、気分障害、睡眠障害、疼痛の検査を行い、適宜当該分野の専門家と連携をとりながら、救命後の患者さんの生活の質の向上にも取り組んでいます。

機能的脳神経外科

てんかん

脳には数百億個の神経細胞があります。それぞれの神経細胞は電気活動によってお互いに情報を伝達しあい、運動や感覚、感情、記憶などの機能を現しています。脳の神経細胞が一時的に異常に興奮して引き起こすさまざまな症状を「てんかん発作」といいます。けいれん発作はてんかん発作の一つですが、嘔気や頭痛、意識消失など「けいれんしない」てんかん発作も数多くあります。

「てんかん」は、脳の何らかの異常によって「てんかん発作」が繰り返し生じる病気を指します。脳卒中や脳腫瘍、頭部外傷、脳炎、脳の先天的な形成障害、海馬硬化、遺伝子異常など、てんかんの原因はさまざまです。発作が毎日起こるてんかん患者さんもいれば、数年に1回しか起こさない患者さんもいます。

約7割のてんかんは、薬物治療(抗てんかん薬)によって発作を抑えることができます。一方で、いろいろな薬物治療を試しても発作が抑えられない難治てんかんの患者さんがいます。てんかん発作が完全に抑えられないと、発作に対する不安や自動車運転の制限など日常生活に大きな支障をきたします。難治てんかんには外科治療が有効な場合がありますので、専門医による精査をお薦めします。

当科では、てんかん科および小児科と連携しててんかんの外科治療を行っています。大学病院としての利点を活かし、複数の科が連携して最先端の診断技術を用い、患者さんに最適な治療を、手術に限らず多角的に検討します。手術は、乳幼児から成人まであらゆる年齢層を対象に行っています。

てんかんの外科治療について、さらに詳しく
→ http://www.epilepsy.med.tohoku.ac.jp/surgery/index.html
てんかん科 → http://www.epilepsy.med.tohoku.ac.jp/index.html

三叉神経痛・片側顔面痙攣

三叉神経痛は、一側顔面の激しい痛み(電撃痛)が、特に顔面に触れるなど刺激によって誘発される病気です。片側顔面痙攣は、まぶたや口角に細かい痙攣を生じる病気で、時にまぶたを開けていられない位に進行することもあります。脳腫瘍などが脳神経を圧迫して生じる場合もありますが、多くは脳血管が脳神を圧迫することで生じるとされます。手術によって、圧迫している血管を神経から離すことで、多くの患者さんは症状が劇的に改善します。内服治療や局所注射で効果が不十分な場合に、手術(微小血管減圧術)を行います。

パーキンソン病

パーキンソン病は大脳内のドパミン産生細胞が減少し脳の中のドパミンが不足することで症状が起こります。治療の原則は薬物治療ですが、病状や症状の種類、薬の副作用などによっては外科的治療を組み合わせた方が有効な場合があります。外科的治療は脳深部の基底核という小さな構造に正確に針を刺す定位脳手術と呼ばれる手術法で行われ、針の先に電気を流して周りの構造を凝固する凝固・破壊術と、治療用の電極を留置しそこに持続的に弱い電流を流し続ける脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)という二種類の治療法があり、病状・年齢・経過予測などをもとに選択します。手術は特に薬の効いていない時の症状を改善し、薬の必要量を減らすことが出来ますが、病気の進行を止める効果は乏しいとされます。内科的治療のみでは満足のいく日常生活が送れなくなったパーキンソン病の患者さんはご相談ください。ただし薬が全く効かないほど進行したパーキンソン病末期の患者さんには残念ながら効果がありません。
定位脳手術については、宮城病院に専門のスタッフを配置して治療を提供しています。

ジストニア

ジストニアは筋緊張の異常により異常運動・異常姿勢を呈する病態です。薬物治療が試みられますが十分な効果が得られないことも多く、局所性ジストニアである眼瞼痙攣や頸部ジストニア(痙性斜頸)にはボツリヌス毒素(ボトックス®)の局所注射が行われます。このような内科的治療で効果が得られない場合、手術を考慮します。病型・症状等により定位脳手術(脳深部刺激術(DBS)や凝固・破壊術)、末梢神経手術などが選択されます。

難治性疼痛

脳卒中後や脊髄損傷などによる四肢や顔面の神経障害性疼痛のうち、種々の薬物が効かない痛み(難治性疼痛)に手術が有効な場合があります。定位脳手術や脊髄刺激療法を行っています。

脊椎・脊髄疾患

脊椎・脊髄疾患疾患は、椎間板ヘルニア/脊柱管狭窄症/靭帯骨化症に代表される脊椎変性性疾患、そして、脊髄腫瘍、脊髄血管性障害、小児奇形に大別されます。そのうち、当科では脊髄腫瘍、脊髄血管障害、脊髄空洞症の手術治療を主に行っています。

なお、仙台医療センター脳神経外科 (http://www.snh.go.jp)宮城県立こども病院脳神経外科(http://www.miyagichildren.or.jp)と診療連携を行い、脊椎脊髄外科訓練練施設として日本脊髄外科学会より認定を受けています(http://square.umin.ac.jp/jsss-hp/system/public/index.html#2013)。

脊髄疾患手術件数(2010~2012年)
硬膜内髄外腫瘍摘出術(神経鞘腫/髄膜腫) 15例
髄内腫瘍摘出術(上衣腫/神経膠腫/海綿状血管腫/血管芽腫) 22例
脊髄生検術(脊髄髄内病変の診断目的) 5例
脊髄空洞症手術(キアリI型奇形 神経内視鏡手術) 9例
脊髄動静脈奇形/硬膜動静脈瘻 20例

脊髄腫瘍

脊髄腫瘍の手術では、手足の運動感覚機能、膀胱直腸機能温存をはかりながら、脊髄腫瘍を最大限摘出することを目指しています。そのために15倍に拡大観察できる脳神経外科手術顕微鏡を駆使する事はもちろん、神経モニタリング、脊髄腫瘍蛍光造影を行っています。さらに、脊髄神経ならびに血管を傷つけず腫瘍のみを破砕するため、水流を利用した新規手術治療機器(ウォーターパルスジェットメス)の開発と臨床応用に取り組んでいます。

<神経モニタリング>

全ての脊髄腫瘍摘出手術で行っています。
脊髄腫瘍手術の際、頭部 両手、両足に検査用シール電極を貼付けます。そして、頭部電極を刺激します。すると、電気信号が大脳運動皮質、脊髄を介し、両手両足の筋肉へ伝わります。その信号強度を手術中に観察しながら手術を行うと、手術後のあたらしい運動感覚麻痺の出現を予防できる可能性が高まります。

術前術後
<図> 脊髄腫瘍摘出の際の神経モニタリング結果の一例。手術開始前(上段)の電気信号強度が腫瘍摘出後(下段)も保たれています。手術後の運動感覚障害の悪化の予防に貢献します。
<脊髄腫瘍蛍光造影>
術前術後

<左図:脊髄上衣腫摘出術>
腫瘍に取り込まれ赤い蛍光を発する5-アミノレブリン酸を用いています。脊髄腫瘍(上段/中段 矢印)が赤く光り周囲脊髄は発光しません。これにより腫瘍と脊髄境界の視認性向上が可能になります。神経機能温存をはかりながら腫瘍の全摘出が得られています(下段)

<右図:脊髄海綿状血管腫摘出術>
血管描出に適した蛍光造影剤インドシアニングリーンを用いています。これにより脊髄腫瘍周囲の血管が描出され、造影されない脊髄腫瘍(上段/中段 星印)とのコントラストが鮮明になります。腫瘍と血管の境界(中段/下段 矢印)が判明し、血管の温存と腫瘍全摘出がなされました(下段)

脊髄腫瘍蛍光造影の有用性について学術論文報告をしています。

  • アミノレブリン酸の有用性について  Neurosurgery誌(2013年6月)
  • インドシアニングリーンの有用性について Journal of Neurosurgery, Spine誌(2013年5月)

脊髄血管障害:脊髄動静脈奇形/硬膜動静脈瘻

脊髄髄内出血、脊髄くも膜下出血、脊髄梗塞をひきおこす疾患に対して治療を行っています。当科では主に手術治療を行っていますが、カテーテルによる脳血管内治療が適応となる場合は、東北大学大学院病態制御学分野あるいは広南病院血管内脳神経外科(http://www.kohnan-sendai.or.jp/index.html) にて治療を行っています。
手術では、脊髄腫瘍摘出手術と同様に全例で神経モニタリングを行っています。また、複雑な脊髄血管解剖をより詳細に把握し、診断と治療に役立てるため全例で3次元統合画像を作成しています。

術前術後
<図:頭蓋頚椎移行部脊髄傍動静脈瘻>
脳血管撮影で得られた血管解剖情報(左)を脊髄神経画像(黄:中央)骨画像(白:右)と統合し描出することで正確かつ安全な手術計画作成が可能となります。また、患者さんあるいはご家族に病気と治療方法についてよりわかりやすい説明をさせていただくことが可能となります。

大変珍しい病気ですが、東北地方から多くの患者さんが紹介され施設として、治療経験が豊富です。治療成績について下記学術論文報告を行っています。

  • 脊髄症をきたす頭蓋内硬膜動静脈瘻症例についてNeurosurgery 誌(2014年)掲載予定
  • 硬膜外脊髄動静脈瘻の治療経験 Neurosurgery誌 (2013年12月)
  • 頭蓋頚椎移行部での脊髄動静脈奇形 Journal of Neurosurgery誌(2013年3月)

脊髄空洞症:キアリI型奇形/くも膜のう胞

術前術後

脊髄空洞症の症状と病態にあわせて、大後頭孔拡大術あるいはシャントをもちいた空洞短絡術を行っています。また、右に示すような、首から腰までに及ぶ大きな病変に対して、神経内視鏡をもちいて手術を行っています。

この方法を行うと、神経内視鏡を用いない従来法に比べて、手術創が小さく、出血量が少なく、そして、手術時間の短縮がはかれる事を示しました。Journal of Neurosurgery, Spine誌(2010年6月)に論文報告しています。

小児脳神経外科

小児医療の進歩に伴い小児脳神経疾患の頻度も確実に増えてきています。二分脊椎、脳・頭蓋奇形、小児脳腫瘍、もやもや病に関して、宮城県立こども病院とあわせ北日本のセンター的存在となっています。 奇形性疾患については、宮城県立こども病院に専門のスタッフを配し高度な治療を行っています。

神経内視鏡手術

脳脊髄液の循環障害、吸収障害により脳に水がたまる水頭症は様々な症状を引き起こし進行すると生命にも影響を与えます。従来、様々なシャント術にて治療されてきた本疾患ですが、一部の患者さんにはファイバースコープ(軟性内視鏡)により脳脊髄液の交通を作ることにより治療可能となりました。また従来の顕微鏡手術では到達困難であった脳室内深部病変の診断(生検)も本法により可能となりました。当施設では10年以上、本法による治療を行っており、より安全で効果のある治療法として適応を拡大しています。また従来の顕微鏡手術の支援装置としても内視鏡の果たす役割は増しています。

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